
フジヤエービック主催の「春のヘッドフォン祭 2014」が5月10日に開幕した。今回も多くの新製品が登場しているが、中でも注目は“平面振動板”を採用した高級ヘッドフォン。前日の9日に発表された米OPPO Digitalの「PM-1」に加え、10日の午前中にはフォステクスが発表会を開催して夏に発売する「TH500RP」を披露。さらにHiFiMANも新しい駆動方式を採用した「HE-560」をお披露目している。
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ヘッドフォンでは、スピーカーを小型にしたようなコーン型ユニットが一般的に使われているが、平面振動板はその名の通りフラット。フォステクスやOPPOの製品は振動板の両側(前後)に磁気回路を設けてプッシュ・プルで駆動させる仕組みだ。
「コーン型では一点から力が加わるため、歪(ひず)みが発生しやすい。しかしRP方式の全面駆動なら共振周波数が分散できるため、音質的に有利だ」(フォステクスカンパニー 技術課PA技術の山口創司主査)。また振幅幅が小さいとき(ボリュームを絞ったとき)にもしっかりした音が出る、音の立ち上がり/収束が早いなどのメリットもあるという。
一方のデメリットは、一般的なコーン型ユニットに比べて、かなり能率が悪いこと。十分な出力のヘッドフォンアンプがないと使えなかったため、例えばフォステクスは1974年に第1号機「T50」を発売しながら、40年間は録音スタジオなどの業務用として販売してきた。しかし近年は民生用ヘッドフォンアンプも普及し、「平面振動板を改めて販売する環境が整った」(山口氏)。もともと音質的には素性の良い平面振動板を、改めてオーディオファン向けの高級ヘッドフォンに採用することを決めたわけだ。
●“平面”でも異なる部分
フォステクスの場合、同社が数十年にわたって培ってきたRP技術を現代の環境や音楽に合わせて進化させるとともに、最新技術も取り込んだ。例えばハウジングには、密閉型の「TH-900」を開発したときのノウハウが生きているという。「中高域は直接ドライバーから届くが、低域は音をいかに逃がすかも重要だ」(同社)。
一方、海外の新興メーカー2社の製品にもそれぞれに“ブレークスルー”があった。
OPPOの場合、平面振動板のデメリットである能率の悪さを改善している。冒頭のスペック表を見れば分かる通り、音圧感度の数値がほかの2社と一桁違う102dB/mWを実現した。「PM-1には数多くのブレークスルー技術が投入されている。もちろんアンプがあるほうが良いが、iPhoneでもそれなりに鳴らすことができるだろう」(OPPO Digital Japanマーケティング・マネージャーの島幸太郎氏)。
もともとポータブルプレーヤーで知られていたが、ここ数年で平面振動板ヘッドフォンのブランドとしても有名になったHiFiMANは、HE-560から駆動方式を抜本的に変更している。同社の従来品では、ほかの2社と同じように振動板の両側に磁気回路を配置していたが、今回の「HE-560」は振動板の片側にしかないという。
「両側にマグネットがある場合、耳に対してマグネットが近いために音場が狭くなる。振幅幅も制限されてパワーも落ちる」と指摘するのは、同社アジア太平洋担当マーケティングマネージャーのRiccardo Yeh氏。「磁気回路が片側だけなら振動板が自由に動く。両側に磁気回路を設ける方式に比べてスピードの速い楽曲は苦手だったが、われわれは独自の特許技術で解決した」という。なお、技術の詳細は今のところ非公開だ。
●製品バリエーションも広がる
今回の3製品は、いずれも室内での利用を前提とした開放型で、価格は7万円台半ばから15万円前後とヘッドフォンとしては高価な部類に入る。しかし平面振動板を採用した従来の製品――例えば米AUDEZE(オーデジー)やSTAX(スタックス)などの高級機に比べれば半額から3分の1程度の水準に“抑えた”ともいえる。これも高級ヘッドフォンやアンプの市場拡大を受け、今後もユーザー層が広がっていくと考えている証拠だ。
さらに、3社とも製品バリエーションを拡大する可能性があることも分かった。フォステクスは、着脱式ケーブルの採用も含め、上位モデルや下位モデルを検討していくと話している(TH500RPは着脱非対応)。またOPPOは、米国で下位モデルの「PM-2」を発表済みだ。HiFiMANも「平面振動板を採用した密閉型を開発中。折りたたみが可能なタイプも検討している」(Yeh氏)として、平面振動板を採用したポータブルモデル登場の可能性をも示唆した。いずれにしても、これまではマニア向けのニッチな製品だった平面振動板採用ヘッドフォンが、今後は少し一般化していくのかもしれない。