
■「ゲオ」がオンライン事業に本腰を入れてきた
DVD・CDレンタル店を展開するゲオが、このところ立て続けに公式スマートフォンアプリ「ゲオ」に関するプレスリリースを打っている。携帯電話向け、およびスマートフォン向けのサービスは以前から提供していたが、昨年11月14日にスマートフォン向け「ゲオアプリ」の大幅リニューアルを実施。クーポンキャンペーンを展開したほか、顧客を店舗へ来店させるための様々な仕掛けをアプリに施した。このアプリはその後も頻繁にマイナーな機能追加等を実施してきたが、2014年2月に入ってからはこのアプリに関して立て続けに3本のプレスリリースが打たれている。まずこの公式アプリが100万ダウンロードを突破し、その記念キャンペーン実施に関するリリースが2月14日に発表された。2月24日にはこのアプリの重要な機能であるカードレスのスマホ会員証サービスが直営全店展開へ。3月7日には、会員が視聴したDVD等のレビュー機能を拡張し、会員間でレビューを参照できるようにした。
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DVD・CDレンタル業界最大手はカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が運営するTSUTAYAで、全国1,461店舗(2013年12月末)を展開している。ゲオは業界2位で、全国1,343店舗(2013年12月末)でTSUTAYAを追う。TSUTAYAといえば、早い時期からオンラインサービスを手がけ、モバイル向けの各種サービスにも力を入れてきた。一方のゲオはリアル店舗での営業展開を主体にし、オンライン系サービスの展開では遅れをとってきた印象があった。
そのゲオがこれまでの遅れを取り戻すべく昨秋からスマートフォン向け公式アプリに本腰を入れ出したのである。じつは筆者もそうしたゲオの変化を昨年から薄々と感じていた。筆者は一時期、モバイルコンテンツ業界に籍を置いていたことがあったが、その時に交流のあったモバイルコンテンツ業界の知人らが続々とゲオに集い出していたからだ。
まずその筆頭が、バンダイネットワークス(現:バンダイナムコゲームス)の元社長だった林俊樹氏だ。林氏は2012年10月にゲオホールディングスに移られ、現在社長室長としてゲオホールディングスの遠藤結蔵社長直轄の組織でネットワーク戦略を一手に担っている。その林氏がゲオに移られた後、続々とモバイルコンテンツ業界各社の第一線で活躍されてきた人たちが林氏のもとに集いはじめた。筆者の知る限りでも、たとえばかつてドコモグループで活躍されていた榎本淳一氏が若手リーダーとしてゲオのスマートフォン公式アプリ等の事業を牽引しているほか、元サミー系コンテンツ会社の倉垣英男氏や佐藤慎吾氏らがゲオグループ全体のブレーンとして関与されている。かつてモバイルコンテンツ業界に関わった方であれば、知る人ぞ知る方々である。こうした動きを見ても、ゲオがいかに本気でネットワーク戦略に取り組もうとしているのかが分かる方には分かるはずだ。
DVD・CDレンタル業界の市場規模は年々減少を続けている。一般社団法人日本映像ソフト協会(JVA)の調査によると2012年の市場規模は2005年と比較し3割の減少となっている。その主な理由は、動画配信サービス市場への顧客の移行と競争激化に伴うレンタル単価の減少である。中小レンタルチェーンの店舗数はピーク時の1/3となるなど、店舗数も減少が続いている。そうした中で、ゲオは引き続きM&Aや積極的な新規出店を続けるなど攻めの経営を行っている。
動画配信サービスへの顧客の移行は、ブロードバンドインフラが整った現代において当然の流れといえる。こうした顧客のレンタル方法の変化に対しては、スマートフォン公式アプリを通じた会員サービスの拡充が要となっていくはずだ。ゲオもここを見越して、公式アプリを軸にオンライン事業に本格的に取り組んでいくことになるのだろう。一方レンタル単価の減少については、もともとゲオは「100円レンタル」など徹底した低価格路線で事業展開を図ってきたため、他のレンタルチェーン企業に比べるとダメージは大きくはない。しかしながら、今後もさらなる収益を確保していくためには徹底したコスト管理が求められてくる。各店舗の顧客ニーズにあった作品をラインアップさせつつ、在庫数を最適化させることで経費削減につなげる必要に迫られる。これは今後、店舗の貸し出しデータや公式アプリを通じたビックデータ分析により、よりきめの細かいマーケティングを実践することで国内シェアトップを目指していくということだろう。顧客のニーズを細かく分析するためにも、会員管理のオンライン化は必然となっていくのであろう。
■コンテンツ業界がうらやむ、リアル店舗を持つ強み
それにしても、このスマートフォン公式アプリを昨年11月14日に大幅リニューアルしてから会員移行が急ピッチに進んでいる感じだ。わずか3カ月で100万ダウンロードを突破しているが、通常、新規にアプリをリリースしても、短期間でこれだけのダウンロード数を実現させることは決して容易なことではない。その上会員証機能を搭載しているので、ゲームのようにすぐに飽きられてユーザーが離れていってしまうこともない確固たる顧客として定着している。一般的なアプリとは桁違いのダウンロード数を短期間に成し遂げたのは、全国展開されたリアル店舗とそこに足を運ぶ安定した顧客基盤があったからこそ実現できたものだ。ゲオは既存の店舗が1,343店あり、ここに確実に足を運ぶ1,600万人もの顧客を抱えている(レジを通過しているアクティブな会員数)。
安定した顧客会員獲得こそがコンテンツ運営に重要な要素となってくるが、多くのコンテンツプロバイダーはこの目的を達成するために多額の広告宣伝費を使い、あの手この手で会員獲得に努める。さらに獲得した顧客会員を維持するのにも苦労を重ねているのである。しかし、ゲオの場合はすでに安定した会員基盤を持っている。しかも1,600万人ものアクティブな会員母数があるので、今後も順調に公式アプリのダウンロードは伸びて行くはずだ。顧客がスマートフォンを所有するようになり、Pontaカードの会員証を公式アプリに移行していけば、ゲオとしては顧客に対して新たな付加価値の提供が可能となる。この顧客プラットフォームに対するビジネスチャンスは、ゲオにしてみれば大きな可能性を秘めているということだろう。
さらにゲオにはTSUTAYAにはない強みを持っている。じつはTSUTAYAはフランチャイズ店が9割を占めるとされている一方で、ゲオは直営店が9割を占めている。直営店が主体のため、事業本部が決定したサービス等をいち早く店舗で展開させることができるのだ。昨今、マクドナルドの滑落が伝えられているが、その要因のひとつはフランチャイズ化によることが大きいともささやかれている。直営店舗で展開し、従業員も直接雇用するということは、規模が大きくなるだけリスクも伴うが、一方で在庫や価格を本部で柔軟にコントロールでき、不採算店舗のスクラップ&ビルドもやりやすいといったメリットが生じる。こうした直営店主体のゲオだからこそスマートフォン公式アプリの展開も一気に進められたのだ。本部から全国店舗への展開のスピード感が、他のチェーン店系企業とは一線を画す。
■「ゲオ」公式アプリサービスの内容
そのアプリであるが、昨年11月のリニューアルから個々のアプリごとにQRコードを割り当て、これを会員証として使えるものとしてリリースされた。TSUTAYAのTポイントに対抗し、ゲオはローソン、ロイヤルマーケティング等と組んで2010年3月よりPontaに参加し、ゲオの会員証自体もpontaカードとなっている。公式アプリではPontaIDを紐付けることで、公式アプリのみでもレンタルができるようなっている。このカードレスのスマートフォン会員証サービスは一部店舗からのスタートだったが、2014年2月24日からは全店でを利用できるようになった。
また、アプリでは店舗検索やマイショップ登録も可能で、マイショップ登録すると「チラシ」「在庫検索」「クーポン」等の機能を利用できるようになる。「チラシ」は店舗の新聞の折り込み広告をスマートフォン上で見ることができる機能。ゲオを利用する顧客層は新聞を購読していない若年層も少なくなく、こうした顧客層への広告効果を狙っている。
「コレクションボード」という、過去にレンタルしたDVD作品やお気に入りの作品を、アプリ上のボードにコレクションのように並べられる機能も備えている。気になる作品や、レンタル済みの作品を一覧化する機能だが、ここに並べられた作品に顧客がレビューを書き込むこともできる。従来は、書き込んだレビュー内容は顧客自身しか閲覧できないものだったが、3月7日に発表された機能拡張では、他の顧客にもレビューを公開できるように仕様変更された。これは消費者が口コミなどを投稿する事で生成されていくコンシューマー・ジェネレイテッド・メディア(CGM)としての展開を考えているものと見られる。さらには、好みのDVD作品等から顧客同士が交流図れるようなソーシャルネットワーク的サービスへの発展も目指していくのだろう。
TSUTAYAに遅れをとったゲオのオンラインサービスだが、このスマートフォン公式アプリを軸にして様々な展開を短期間で実現させていくようだ。前述したが、ゲオではレジを通過しているアクティブな会員だけでも1600万人を抱えている。既存店舗約1,343店にこれだけの顧客が確実に足を運ぶ、いわば安定した顧客プラットフォームを持っている。「ログインボーナス」や「来店スタンプ」などを通した仮想通貨「ゲオス」による利用促進など、顧客がゲオのサービスに対してアクションを取ることにインセンティブを与えることで、アプリの利用頻度や来店頻度を一層高める効果も狙っている。今後はこれらの小技で収集したデータから顧客の行動分析を行い、レコメンデーションの手法も取り入れ、効果的に顧客に商材をアプローチしていくような展開も試みるのだろう。ゲオの既存会員へのサービス拡充につながる上、広くPonta会員向けにもゲオと絡めたサービス展開などの発展も期待できるのかもしれない。オンラインからオフラインへ顧客を誘導させるO2O(Online to Offline)マーケティングの試みが各所で見られるが、そうした中でゲオのオンライン戦略の今後の動きは、マーケティング関係者必見であろう。