
トライグルが開発したスマートフォン向け消費電力測定ツール「TRYGLE POWER BENCH」。前回はその概要と、開発のきっかけにもなったスマートフォンのバッテリー消費の実情について、トライグル代表取締役社長の冨森健史氏に話を聞いた。
【画像:カメラを起動して動画撮影した際の電流値、ほか】
今回は、スマートフォンでどんな操作をするとどのようにバッテリーが消費されるのか、実際にTRYGLE POWER BENCHで測定しながら説明してもらった。まず最初はディスプレイについてだ。前回も触れた通り、スマートフォンの消費電力はディスプレイの大きさに比例して増えてきた。では具体的にどれくらいの電流が流れているのか、有機ELを搭載したAndroidスマートフォンで測定してみた。
●ディスプレイ点灯で消費電力は段階的に増加
このグラフの青い線は、スマートフォン全体が消費している電流のレベルだ。ディスプレイを点灯せず何も操作しない待受状態の消費電流はわずかだが、それでも定期的に最大200mAから400mAのピークが発生しているのが分かる。ちなみに、この定期的なピークの発生パターンはメーカーや機種によって違っているという。
「起動状態のスマートフォンにはデバイスを駆動させるためのベース電流が常に流れていて、さらに待受状態では通信とCPUの処理が定期的に発生しています。通信は基地局との接続状態を確認するための制御信号のやりとり、CPUの処理はOS(Android)自体やアプリのバックグラウンド処理などです」(冨森氏)
そしてディスプレイをオンにすれば消費電流は200mA台へ底上げされ、タッチパネルを操作するとその分だけ一時的に電流量が800mAから1000mAまで増えている。ディスプレイを点灯させるための電力に加え、タッチパネル入力とユーザーインタフェースを描画するための処理に電力が必要なためだ。
「スマートフォンの操作はタッチパネルがメインですから、ディスプレイが点灯すれば入力操作とユーザーインタフェースを描画するための処理が発生します。さらにブラウジングならネット通信が必要ですし、カメラを使うなら撮像素子などハードウェア用の電力が必要になる。こうして段階的に消費電流が増えていきます」(冨森氏)
例えば端末内の画像を表示するだけなど、通信やUIの描画処理が発生しない場合は、その分の消費電流が少なくて済むという。ではディスプレイの明るさについてはどうだろうか。こちらもユーザーがイメージしている通り、明るくすればするほど消費電流が増えていく。
「このグラフはディスプレイの輝度設定を3段階で計測した値です。この機種では明るさ(brightness)が10%の場合に160mAの電流が流れています。50%なら240mA、最大輝度の100%なら360mAと倍近い電流になりました。輝度を上げれば消費電力は増えますが、『明るさが半分なら消費電力も半分』というわけではありません」(冨森氏)
計測は有機ELディスプレイの背景を白1色(RGBの全LEDがすべて点灯している状態)にして行った。表示方式が違う液晶ディスプレイの場合も明るさについては同様の傾向を示すという。ただし、表示する色によって有機ELと液晶で違いが大きくなる。有機ELで背景を黒一色(RGBの全LEDが点灯していない状態)にした場合は、輝度を変えても消費電流にあまり違いは見られなくなるそうだ。
●機内モードと動画撮影 ハードのオン/オフでどこまで違う?
ではディスプレイを使わない場合、つまり待受状態ではどうだろうか。次のグラフは、LTE圏内の待受状態(赤い線)と機内モード(青い線)の違いを計測したものだ。待受状態では4mAから11mAの小刻みな山が続き、数回おきにその山が20mAと倍程度に高くなる。これは「いつでも通信ができるよう、端末が常にウォーミングアップをしているため」と冨森氏は説明する。
そして、最大400mAと中央のひときわ大きな山が、LTEの通信が発生した際の消費電流。先に触れた通り、携帯電話やスマートフォンは待受状態であっても定期的に実際の通信が行われる。注目したいのは、その直後に3分の1くらいの山が発生している点。3Gスマートフォンの待受状態ではこうした通信が見られないそうで、LTE特有のグラフだという。また待受状態の通信は移動中や圏外で多くなり、その分消費電流も増える。これは端末が移動していることで基地局のハンドオーバーが起こったり、遠方の基地局を探すためだ。
携帯電話としての通信をすべてオフにする機内モードだが、通信に関連しないデバイスはオンの状態なため、操作していなくてもベース電流は流れている。また定期的に、プロセッサーが短時間だけなにかの処理をしているのが分かる。
次に、カメラで動画撮影をしている状態の測定を行ってもらった。カメラアプリを起動すると撮像素子などの専用ハードがオンになり、ディスプレイがファインダーになるため画面の描画処理が連続で発生する。その際の消費電流は600mAだが、録画が始まればメモリーへの書き込みなどで、700mAから800mAとさらに多くの電流が流れる。動画撮影は電力を消費する要素がいくつかも重なる、バッテリーには厳しい操作なことが裏打ちされた。
グラフでは録画中に2段階の山が発生しているが、冨森氏は「はっきりとした原因は詳しく調べないと分かりませんが、動画の手ブレ補正処理が影響しているかもしれません」と分析している。
撮った後の動画再生はどうだろうか。グラフを見ると、350mA程度と撮影時よりも半分程度の電流で済んでいるのが分かる。動画再生時はディスプレイが点灯状態になるが、撮像素子がオフになることや、カメラのファインダー画面を描画する処理もなくなること、メモリーの書き込みよりも読み込みのほうが電力が少なくて済むなど、録画時よりもバッテリーの消費が少ないようだ。
スマートフォンで動画を見る場合、端末に保存された動画ファイルだけでなく、Web上のストリーミングサービスを利用することも多いだろう。そこで、YouTubeを視聴している場合の電流も計測してみた。
グラフを見ると、動画(広告)の再生開始とともに動画をダウンロードするためのLTE通信が始まり、最大900mAの電流が流れ、その後500mA台で推移しているのが分かる。ただし、動画再生中でも所々に、電流値が下がる“谷”のような場所がみえる。これは動画ダウンロードのため通信のオン/オフが影響しているという。広告動画が終わって動画の本編が始まると、新たな通信が始まりまた500mAから900mAの電流が流れ始める。
「YouTubeはストリーミング形式で動画を配信していますが、途切れずスムーズに再生するようデータを先読みしてキャッシュしています。動画の再生中でもダウンロードが終わることがあり、通信が終われば消費電流はその分少なくなります」(冨森氏)
TRYGLE POWER BENCHで計測するスマートフォンの消費電流。今回はスマートフォンの基本的な操作でどのように電力が使われているのかを調べてみた。こうして見ると、端末のハードウェアはもちろんだが、アプリがどんなことをしているかで電力消費が大きく異なることが分かる。次回は代表的なアプリを使うことで、バッテリーがどのように減っていくのかをチェックする。
[平賀洋一,ITmedia]